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高松高等裁判所 昭和41年(行コ)1号 判決

控訴人(原告) 農事組合法人 香川県向上組合連合会

被控訴人(被告) 農林大臣

訴訟代理人 杉浦栄一 外四名

主文

原判決を取り消す。

控訴人の訴は、何れもこれを却下する。

訴訟費用は、第一、二審分とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人に対し、昭和三九年一一月二六日付三九中政第七、三四九号をもつてなした措置命令及び昭和四〇年一月二五日付三九中政七、九〇七号をもつてなした解散命令は、何れも無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審分とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否は、控訴人代理人において、「第一審裁判所は、控訴人に、一回もその主張を陳述させる機会を与えず、控訴人に、一方的に不利益を与えた。」と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

よつて、職権をもつて案ずるに、

行政庁の処分の効力の有無の確認等を求める無効等確認の訴の原告適格については、行政事件訴訟法第三六条の定めるところであるが、本訴についてこれをみるに、被控訴人が、控訴人に対し、昭和三九年一一月二六日付三九中政第七、三四九号をもつて、控訴人主張の如き措置命令を、次いで、その後続処分として、昭和四〇年一月二五日付三九中政第七、九〇七号をもつて、控訴人主張の如き解散命令をなしたことは当事者間に争いがないから、本訴に予防訴訟的意味合いはないし、そして、控訴人の主張、その他の諸資料を検討してみても、控訴人が、右処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴(例えば、右処分の無効を前提として、控訴人の解散登記の抹消登記手続請求訴訟(控訴人の解散登記がなされていることは、弁論の全趣旨から認められる。))によつて、目的を達することができない事由を見出すことはできず、結局控訴人は同条所定の適格を有するものとはなし難いから、本訴は、何れも不適法として却下を免れず、本案に立ち至つて判断した原判決は取消を免れない。

なお、控訴人は、第一審裁判所は、控訴人に、一回もその主張を陳述させる機会を与えず、控訴人に、一方的に不利益を与えたと主張するが、かかる事実のないことは、本件記録に照らし明らかである。

よつて、民訴法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 呉屋愛永 杉田洋一 鈴木弘)

原審判決の主文および事実

主文

(一)、昭和四〇年(行ウ)第一号事件につき

原告の請求を棄却する。

訴訟費用中右事件につき生じた分は原告の負担とする。

(二)、昭和四〇年(行ウ)第四号事件につき

原告の請求を棄却する。

訴訟費用中右事件につき生じた分は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、昭和四〇年(行ウ)第一号事件(以下単に第一号事件と称する)につき、

原告代理人は、被告が昭和三十九年十一月二十六日付三九中政第七三四九号をもつて原告に対して為した措置命令は無効であることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

被告代理人は主文(一)と同旨の判決を求めた。

二、昭和四〇年(行ウ)第四号事件(以下単に第四号事件と称する)につき、

原告代理人は、被告が昭和四十年一月二十五日付三九中政第七九〇七号をもつて原告に対して為した解散命令は無効であることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、被告代理人は主文(二)と同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

第一、四号事件につき

一、原告代理人はその請求の原因として次のとおり述べ、

(一) 原告農事組合法人香川県向上組合連合会(以下単に原告農事組合法人と称する)は、昭和三十九年四月一日設立の登記をなし、同年九月二十七日その旨を被告(所管中国四国農政局)に届け出た。

(二) 被告は、同年十一月十三日農業協同組合法(以下単に農協法という)第九十四条第二項の規定にもとづき原告農事組合法人に対し検査を実施したところ、原告農事組合法人には農協法及び農地法に違反する事実があることが認められるとして、被告は原告農事組合法人に対し同年十一月二十六日農協法第九十五条第一項の規定にもとづき、同日付三九中政第七三四九号をもつて次のような内容の措置命令をなした。すなわち、

1、原告農事組合法人は、組合員からその保有小作地の現物出資を受けているか、この小作地の所有権取得については、香川県知事の許可を受けていないので、農地法第三条第一項の規定に違反するからこれを撤回し、組合員及び小作人へ通知すること。

2、原告農事組合法人は組合員からその保有小作地にかかる小作料債権を譲り受け、これにもとづき地代(農地の収穫量の五割五分を政府買上価格で換算したもの)と称して既受領の小作料(法定小作料)相当額を控除したものの昭和三十五年以降四ケ年精算したものを小作人に対し請求し、支払命令の申立に及んでいるが、法定小作料以上の小作料を収受することは農地法第二十三条の規定に違反するから、右支払命令の申立を取り下げるとともに、債権譲渡契約を撤回し、かつその旨を当該組合員及び当該小作人へ通知すること。

3、原告農事組合法人の定款には、絶対的記載事項である損失の処理に関する規定(農協法第七十二条の十一、第二十八条第一項第八号)、準備金の額及び積立方法に関する規定(同法第二十八条第一項第九号)及び現物出資者の氏名、出資の目的たる財産及びその価格、並にこれに対して与える出資口数に関する規定(同法第二十八条第三項)が欠けているからこれを整備すること。

4、総会の議事録及び規約を事務所に備えつけること(同法第七十三条第二項、第三十八条)

以上の措置は昭和三十九年十二月十日までに完了し、速かに被告あて報告すること、そして右措置命令に対して、原告は同年十二月八日被告に異議申立を行つたが、被告は同年十二月二十三日これを棄却した。

(三) ところが原告農事組合法人が、右措置命令にしたがわなかつたとの理由で、被告は農協法第九十五条の二の規定にもとづき、昭和四〇年一月二十五日原告に対し、三九中政第七九〇七号をもつて解散命令をなし、その登記を嘱託した。(特に第四号事件関係)

(四) しかれども、被告のなした右措置命令及び解散命令(特に第四号事件関係)はいずれも違法、無効のものであつて、その理由は次のとおりである。

(1) 被告の主張する「農地法第三条第一項の規定(知事の許可)並びに農地法第二十一条の基本法規に違反した金納制」は農業基本法昭和三六年法律第一二七号に基づき、明らかに廃止されており、右二点に関する農業生産法人に対する法的規制を明らかにする。

1、そもそも農地法第三条第一項の目的内容は、農地を耕作せずして農地の利益を目的とする地主即ち不在地主を廃止して、耕作権を有する者に限り所有を認める事を目的として権利移動の制限、即ち知事の許可制をもうけたのである。これを具体的に説明すれば、

耕作面積について、例えば香川県に於ては最高一町八反まで耕作を認められ、耕作していない地主については生活生命の保証として最高六反までの保有農地を認めると言うことであり、最高一町八反、保有農地については最高六反と云う枠を作りその枠内における権利移動の制限なのである。

右は個人の権利移動についての制限であつて、その制限は農業生産法人については農業基本法(昭和三十六年六月十二日法律第一二七号)に基づく農地法一部を改正する法律第三条第二項第三号第四号の規定により廃止されたのである。右法条は農業基本法に基づく農地法一部を改正する法律において新たに設けられた条項であつて、従来の農地法とは根本的にその立法精神の異るものである。右法条において、農地の権利移動については明らかに農業生産法人を除くと明記されている。農地法施行規則第三条の例外規定とは、個人の権利移動に対する例外規定であつて、農業生産法人には適用されないものである。

それ故に農業生産法人の一種である原告農事組合法人が農地の所有権を取得するについては知事の許可を要しないものというべきである。

それ故に原告農事組合法人がその組合員から保有小作地の現物出資を受けて、その所有権を取得した行為は何等違法とはいえない。

2、次に農林行政官が決定、施行しているいわゆる金納制による小作料統制額は農地法第二十一条並にその基本法規である農地調整法施行令第十二条に違反する違法、無効のものである。

(イ) 被告主張によれば、「小作料統制令(国家総動員法に基づいて昭和十四年十二月六日に制定、同月十一日施行され、同年九月十八日を基準として、それ以降における小作料引上を原則として禁止した。この勅令は第一次農地改革の際、農地調整法に第九条ノ三の規定が入つたのと引替に、改正附則第五条で、昭和二十一年四月一日をもつて廃止された)の廃止の際に小作料の定めがある農地については、その統制小作料額をそのまま農地調整法の統制額とし、これを越えて契約し、支払い、又は受領することを禁止される。」

とあるが、前記小作料統制とは年貢米の価格の統制であつて、小作料の統制ではないのである。「農地調整法第九条ノ三の規定が入つたのと引替えに」とあるは、収穫量の五割五分が小作料の基準となり、生産量が基礎となる法規であり、小作料統制令施行後七年間継続したものをそのまま施行すべしと云う法規である。

故に当然、生産量の五割五分に物価庁の定めた価格を換算した額が小作料の法定価格の基準となるべきものである。

右の小作料統制令による統制の基礎となつていた小作料が金納のものではなくて、いわゆる物納、代物納あるいは代金納のものである場合(田については、これが大部分であり、畑についても半ば近くを占めていた)には農地調整法施行令第十二条の定めるところにより、これを金銭に換算した額が統制小作料額とされる。換算の基礎となる価格は第一次農地改革当時の消費者価格、即ち、玄米一石当り金七十五円という価格によつた(同法九条ノ三第一項第一号)

右法文中「小作料が金納のものではなくて、物納、代物納あるいは代金納のものである」とあるように収穫量の五割五分が法定小作料の基準である。

「同施行令第十二条の定めるところにより」とは収穫量の五割五分を基準として内閣物価庁の定めた毎年の米価に換算した額が小作料の基準となるという趣旨であつて、農業委員会がこれを決定する権限はないのである。

その根拠は農地調整法施行令第十二条第三項に明記してあるので、左記条文を引用して説明を加える。

農地法第二十一条の基礎となる農地調整法施行令第十二条の第一項(本文)

〈1〉 農地調整法第九条ノ二第二項及第九条ノ三第一号ノ規定ニ依ル小作料ノ額、又ハ減免条件ノ換算ハ当該契約ニ係ル物ニ付農林大臣ノ定ムル価格ニ依ル

右、法文中「当該契約ニ係ル物ニ付キ」とあるは昭和二十年までに旧名地主、旧名小作人間の契約したものを言うのであつて、契約とは物納を基礎とした代金納制でもあつたものを、代金納制に一率にせよと言う法規である。

「農林大臣ノ定ムル価格」とあるは、内閣物価庁の毎年定めた価格を農林大臣が公布したものであるから、物価庁の定めた価格によつて小作料の代金の受授を行う可しと言う法規である。

農地調整法施行令第十二条第二項

〈2〉 前項ノ規定ハ小作料ノ額ガ収量ニ対スル率ニ依リ定メラレタルモノ其ノ他当該小作契約ニ於テ小作料ノ額ガ一定セザルモノ(以下刈分小作料、見取小作料等ト称ス)ナルトキハ最近五年ノ中豊凶最モ著シキ二年ヲ除キタル三年ノ実納小作料ノ平均額ニ付キ之ヲ適用ス

右、法文中「小作料ノ額ガ収量ニ対スル率ニヨリ定メラレタルモノ」とあるは即ち小作料の代金は収穫量の五割五分である。

農地調整法施行令第十二条第三項

〈3〉 刈分小作料、見取小作料等ニシテ最近五年ノ実納小作料ナキモノ又ハ明ラカナラザルモノニ付イテハ農地調整法第九条ノ二第二項及第九条ノ三第一号ノ規定ニ依ル小作料ノ額又ハ減免条件ノ換算ハ当事者ノ申出ニ依リ市町村農地委員会ニ於テ当該農地ニ付従前存シタル実納小作料ニシテ知レタルモノ又ハ近傍類地ノ小作料ヲ斟酌シテ之ヲ為ス

右、法文中「刈分小作料」「見取小作料」とあるは凶作等の場合について前者は坪刈により収穫量を旧名地主、旧名小作人間において決定するものであり、後者は、推定により収穫量を決定するもので、毎年の物価庁の定める価格によつて代金納により小作料の代金を授受すべきを明示したものである。

「農地調整法第九条ノ二第二項及第九条ノ三第一号ノ規定」とは、小作料の代金は生産量を基準とし、物納を基準とした代金納制一率にすべしという法規である。

「減免条件ノ換算ハ当事者ノ申出ニ依リ」とあるは、不作の場合に旧名地主、旧名小作人の間に於て、生産見込高の決定不可能の場合、はじめて両者の申出により、農地委員会が調停に立合うべしという法規である。故に農地委員会並びに農業委員会は旧名地主、旧名小作人間の年貢米決定の権利はないのである。

要するに、農地調整法施行令第十二条の規定においていわゆる金納制は明らかに禁止されており、更に農地委員会ないし農業委員会が小作料額を定める権限のないことは法規により明らかである。

(ロ) 次いで昭和二十七年十月二十一日農地法(同年法律第二二九号)の施行により、同法第二十一条の規定その他において右農地調整法施行令第十二条の規定を引継いだのである。即ち、農地法第二十一条第一、二項の規定において、小作料は物納、代物納又は代金納のものである旨を規定しているのである。

被告主張によれば、「農業委員会が法定小作料を定めるにあたつては、小作農の経営を安定させることを旨とし云云」とあるが、保有農地なるものは、「市町村農地委員会ニ於テ近ク其ノ所有者自作ヲ為スモノト認メ、且其ノ自作ヲ相当ト認ムル農地」については当然所有者に返還さるべきものであるから、被告の主張は何等根拠のないものである。また被告主張は、「農地法施行規則で定める基準に基づき算定した額について都道府県知事の認可を受けることになつている。(農地法第二十一条第一項)。農地法施行規則で定める基準は、小作農に適正な労働報酬、利潤を附与した残余の収益を基準として自然条件、作業条件等を考慮し、農地の等級ごとに定めているのであり、合理的根拠のあるものである」というにあるが、農地法第二十一条第一項、第二項において「小作料が金納のものではなくて、物納、代物納あるいは代金納のものである」と明記してあるにも拘らず、農地委員会並びに農業委員会の定めたいわゆる金納制による小作料として反当り最高金千四百十円、最低金五百七十円(農林省告示)を施行したことは違法、無効である。

(ハ) 次いで農業基本法(昭和三十六年法律第一二七号)は、農地保有の合理化と農業構造改善の施策の一環として新しく設けられた法律であつて、以上に述べた農地における権利移動及び農林行政官による違法小作料の誤つた施行を是正する目的をもつているのである。即ち、農地法第三条第一項の規定によつてなされる農地の権利移動の制限が農業経済を衰退破壊させるのを防ぐ為めにその制限を撤廃して大農主義を実行し、現在の発達した農機具により労力節約並に経費節約により組合員の利益の増大をはかることを目的として農業基本法に基づき、農事組合法人の設立を認めているのである。

而して右法人の利益配当についても、農地法(昭和三十七年五月十一日付法律第一二六号による改正法律)は第二条第七項第六号並に同法施行規則第一条の五の規定により出資額の年六分の割合とする旨定められていることによつても、原告農事組合法人の「小作料は生産量の五割五分を基準としてこれを内閣物価庁の定める米価により換算した代金額によるべきである」との主張は適法なものとして再確認されているのである。

(ニ) 而して、原告農事組合法人が組合員から現物出資を受けた小作地の小作料は前記代金納制によるべきものである。しかるに農林行政官(農林省、県知事、農地委員会並に農業委員会を構成する公務員)は法の曲解に基づき右代金納制を前記のような金納制にすりかえた結果、現行の小作料統制額は前記のとおり反当り最高金千四百十円、最低金五百七十円と定められている。右農林行政官のとつた措置並に小作料統制額は違法無効である。それ故原告農事組合法人が組合員からその保有農地にかかる小作料債権を譲り受け、これに基づき前記代金納制による小作料代金から既受領の小作料(前記金納制による統制小作料)相当額を控除した差額金を小作人に対し請求するのは何等の違法はないものというべきである。

(2) しかるに、原告農事組合法人においてその組合員からその保有小作地(農地)の現物出資を受けてその所有権を取得した行為及び右組合員から前記小作地にかかる小作料債権を譲り受けて前記差額金を小作人に請求し支払命令の申立に及んだ行為等に対し、被告がこれを違法として前記措置命令を発し、更にこれに従わないことを理由に解散命令を発したのである。

してみれば被告の為した右措置命令及び解散命令は共に違法無効である。

二、被告代理人は答弁として次のとおり述べた。

(一) 原告主張の請求原因事実(一)(二)(三)の点及び(四)のうち原告において被告主張と指摘している部分は認めるがその余の部分はすべて争う。

(二) 本件措置命令及び解散命令(特に第四号事件関係)は共に適法である。すなわち、

(1) 原告は、本件措置命令および解散命令が違法であるとして、(イ)農事組合法人については、農地の権利移動に県知事の許可はいらないこと、(ロ)農地法第二十一条の規定は、物納、代物納、代金納の場合には適用されないこと、をあげておられる。

(2) しかし、原告の主張は、つぎの理由により失当であるといわなければならない。

(イ) 農地法第三条は、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し、その権利を保護」するため、農地の権利移動を統制していることはいうまでもない。そこで、同条第一項但書の場合を除いては所有権移転について県知事の許可を受けなければならないものとしている。この権利移動の制限については、個人についてのみならず、法人であつてもひとしく適用されることは法文上明らかである。原告は、同条第二項第三号、第四号において農業生産法人は除かれているから、農業生産法人の農地所有権取得については県知事の許可は不要であるとされている。しかし、同条第二項は、同条第一項を前提として、同条第二項各号に該当する場合には、許可を与えることができないとされているのであつて、同条第二項第三号第四号において農業生産法人が除かれているのは、農業生産法人にあつては、農地の最高面積の制限がないというだけのことである。

したがつて、農業生産法人が農地所有権を取得する場合には、同条第一項本文によつて県知事の許可が必要であるのはいうまでもない。しかるに原告は県知事の許可を受けないで、農地の現物出資を受けたというのであるから、同条に違反していることは明らかであつて、これが是正を命じた本件措置命令はもとより適法であるといわなければならない。

(ロ) 小作料は、昭和二十一年四月一日から、物納、代物納または代金納とも、すべて金納小作料に転換され(農地調整法第九条ノ二、第一項「小作料ハ金銭以外ノ物ヲ以テ又ハ金銭以外ノ物ヲ基準トシテ之ヲ契約シ支払ヒ又ハ受領スルコトヲ得ス」、第二項「命令ノ定ムル所ニ依リ金銭ニ換算セラレタル小作料ノ額…………ヲ以テ契約ヲ為シタルモノト看做ス」)、同法施行令第十二条第一項により「農林大臣ノ定ムル価格ニ依ル」こととされ、換算の基礎となる価格は玄米一石当り七十五円とされた(昭和二十一年一月二十六日農林省告示第一四号)。ついで、昭和二十五年九月十一日農林大臣は農地調整法第九条ノ五にもとづき、小作料の額を「農地調整法第九条ノ三第一項の規定に掲げる小作料の額に七を乗じて得た額とする。但し、その額が反当り金六百円をこえる場合は金六百円とする」旨の告示(農林省告示第二七七号)をなした。そして、昭和二十七年十月二十一日農地法が施行され、昭和三十年九月二十一日同法施行規則第十四条の二が施行され、小作料の最高額が所定の手続にもとづき定められた。しかるに原告は収穫量の五割五分が法定小作料であるとし、これを政府の買上価額で換算し、既受領の小作料相当額を控除したものについて、昭和三十五年以降四ケ年分を積算したものを小作人に請求し、その支払命令を申立てたのであるから、「農地法第二十一条の規定により農業委員会が定めた額をこえて支払い、若しくは受領してはならない」という農地法第二十三条の規定に違反していることは明らかである。したがつて、これが是正を命じた本件措置命令はもとより適法であるといわなければならない。

(ハ) 原告は本件措置命令にしたがわないので、被告は農協法第九十五条の二の規定にもとづき本件解散命令をなしたのであつて、本件解散命令も亦適法であるのはいうまでもない。

第三、証拠〈省略〉

(昭和四一年二月一〇日高松地方裁判所判決)

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